【つぎラノノミネート中!】「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。

 貴族の傍流などでは行儀見習いの一環で、身分の高い貴族に仕えることはままあった。こちらとしても最低限の教育なども行き届き、身元がはっきりとしているので、使用人として雇用しやすい。

「ええ。明日早いの。もし、何かあったらアーサーに対処して貰うようにするから……」

「明日早いにしても、時間が早すぎます! これでは、深夜に目が覚めてしまいますよ?」

 私は「そうなの。そうしたいから」とも言えずに、言葉を濁し、人払いをしてからベッドへと眠りについた。

 その日、見た夢の中で私は、幼い頃ジャスティナと一緒に行った森の中に居た。エリュトロン家の領地には、深い森があり、私たちはその中で遊ぶことがとても好きだった。

 懐かしい森の匂い漂う空気の中で、私は肺をそれで満たすように思いっきり深呼吸をして、ぱちっと目を開けた。

 ……そして、呼吸をすることも忘れてしまうほどに、とても驚いた。

「な……何、しているの? シリル」

 眠っていたはずの私がパッと目を開けたことで、彼側だって驚いているのか、目を何度か瞬かせていた。

 シリルは私の夫だから、私の部屋に入ってくることは、おかしなことでもなんでもない……私も彼に対し、そうしようと思って居たくらいなのだから。

 けど、起きた時に彼の顔しか見えないという事態は、人生で初めてだったので、驚きの感情が先に出てしまった。

「……うん。ごめん。今日は思ったより早く帰れたんだけど、フィオナがもう寝てしまっているって聞いたから。心配になって見に来ただけなんだ……体調が悪い?」

 なんと、心配そうな表情のシリルは私が眠っていると聞いて、何があったのかと部屋に入ってきたところだったみたい。

 眠りやすいように照明を落とした部屋の中は暗く、シリルの顔はかろうじて表情が読み取れる程度だ。けど、高い位置にある壁掛け時計の針の位置は、はっきりと陰影が濃く良くわかった。

 本来ならば、夕食を食べている時間に私は眠っていたから、シリルは心配になったんだ。

「ごめんなさい……私、先に眠ってしまって……体調は、全然悪くないの」
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