【書籍化】「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
 私はシリルがわざわざ取りに行ってくれた果実水を、ずっとグラスをただ持ったままで飲んでいないことに気がついた。

 こくりと喉を鳴らして飲むと、彼は満足そうに頷いた。

「どう? フィオナ。少しは気分が良くなった?」

 彼は空になったグラスを取ると、ちょうど通りかかった給仕係のトレイへと置いて返していた。

「何も……思わなかったの?」

 あの、美しい親友ジャスティナを見ても、何も?

「何が?」

 私が何を言わんとしているのか、良くわからないという表情をしたシリルは本当に不思議そうだ。

 現れた国王が口上を始めたので、聞こえづらいと思った彼は顔を近づけて首を傾げている。

「あの、私のし……」

「シリル!!!」

 いきなり大きな声が聞こえて、私はとても驚いた。だって、今国王が話しているのに、そんな時にこんな傍若無人なことが出来るなんて。

 名前を呼ばれた当の本人であるシリルは良い笑顔のままで、舌打ちしたのが聞こえた。

「やあ、ベアトリス。とても久しぶり。元気にしてた? 相変わらず美しいね」

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