【書籍化】「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
「だから、こんな私は、シリルに好きになってもらえないの……」

 嫌だ変わりたいと、いつも思ってた。ジャスティナと同じように、明るく振る舞えば人の見方は変わるかも……そう思ったりしたことだってあった。

 それなのに、そうすることが出来ないのだ。抜け出せる方法なら、肌でわかっていた。控えめに笑っているだけでは、誰も振り向いてくれない。このままだと、嫌だと思っている状況から逃げられない。

 けど、私はそうしなかった。現状を変えない方が、嫌な思いをすることだってない。その方が、楽だったから。

「……なあ。それって、シリルに聞いた?」

 ルーンさんは重い空気を変えるように、わざと明るい声で聞いて来たので、私は目を瞬かせてから首を横に振った。

「いいえ……?」

「じゃあ、俺はそれ聞いても、あんたのこと嫌いにならなかった。もし、それを打ち明けてシリルが嫌いだって言ったのなら約束するよ。あんたのことは、俺が最後まで責任持つ。なんか、俺が酒飲んで適当に言ったことが、そもそもの元凶だったしな」

「えっ……でも、ルーンさん?」

 何を言い出したのだと慌てた私に、ルーンさんは楽しそうに笑った。

「ははは、そんな顔すんなよ。あんたは困り果てたシリルを助けようと、酒場で即結婚決めたんだろ? 俺だって英雄の一人なんだから、条件的にはあいつに負けてないだろ。じゃあ、シリルに聞いて来いよ。もし、駄目だったら俺が一緒にここから逃げてやるから……フィオナ」

 今まで全く男性として意識していなかったルーンさんは、うずくまって泣いていた私の手を大きな手で取り、立ち上がらせると笑った。
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