冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
第一章 セシリーと魔法騎士

〈プロローグ〉

 目を開けてすぐ、私は落胆した……。ずいぶん前に目を閉じた時と周囲の光景が少しも変わっていなかったから。

 ただ真っ白な、私以外には何も存在しない空間。ここは、私の元いた世界ではない。瘴気に飲み込まれそうになった王国を救うため、聖女の力を限界まで使ったことで……私は体ごと光となって自分以外の誰とも触れ合えない、こんな空間に飛ばされてしまった。

 それ以来私はずっとあの数か月を思い出しながら祈り続けている。元の世界に戻る方法はこれしかないのだ。

 だから私は何年でも何十年でも繰り返すだろう。生真面目ではにかみ屋で、綺麗な紫紺の瞳をよくうつむかせていた黒髪の魔法騎士団長――リュアン・ヴェルナーの言葉を(しるべ)として、思い出を振り返る旅を。

『大丈夫だ……落ち着いて。ゆっくり呼吸をして、いつも過ごす場所を、帰りたい場所を思い浮かべるんだ。大丈夫、俺がそばにいる』

 最初はひどい出会い方をしたけど、それでもあの人は何度も助けてくれた。

『いつも通りでいいさ。俺はもう、ファーリスデルの人間として生きることを決めたから』

 長い間背負ってきた苦しみと向き合ってでも、隣の国まで駆けつけてくれた。
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