冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
見上げると小綺麗な姿の男と目が合う。彼は笑顔で手を差しのべ、彼女を引っ張りあげてくれた。
「す、すみません。ありがとうございます……」
「礼には及ばないよ。おや、そんな靴じゃ歩けないね。失礼――」
涙まみれの顔をハンカチで必死に抑えていたセシリーの身体はいきなり持ちあげられ、男の腕の中にふわっと納まる。
「きゃあ! ちょ、ちょっと!」
「どこかで靴を買ってあげるからさ。しばらく大人しくしておいで」
男はセシリーを腕に抱え、悠々と通りを横切ってゆく。生まれて初めての経験に、セシリーは思わず赤面した顔を覆う。マイルズだって彼女をこんな風に女性らしく扱ってくれたことは無い。
(困ったな、会ったばかりの人に……。でも、もういい。婚約者も奪られちゃって、誰も私のことなんか気にしてくれてないんだから)
その事実を頭に浮かべただけで、セシリーの喉から辛い感情が呻きとなって溢れた。嫌なところは見ないふりしてまで好きになろうと努力したのに無駄だった。簡単に捨てられてしまった。
「す、すみません。ありがとうございます……」
「礼には及ばないよ。おや、そんな靴じゃ歩けないね。失礼――」
涙まみれの顔をハンカチで必死に抑えていたセシリーの身体はいきなり持ちあげられ、男の腕の中にふわっと納まる。
「きゃあ! ちょ、ちょっと!」
「どこかで靴を買ってあげるからさ。しばらく大人しくしておいで」
男はセシリーを腕に抱え、悠々と通りを横切ってゆく。生まれて初めての経験に、セシリーは思わず赤面した顔を覆う。マイルズだって彼女をこんな風に女性らしく扱ってくれたことは無い。
(困ったな、会ったばかりの人に……。でも、もういい。婚約者も奪られちゃって、誰も私のことなんか気にしてくれてないんだから)
その事実を頭に浮かべただけで、セシリーの喉から辛い感情が呻きとなって溢れた。嫌なところは見ないふりしてまで好きになろうと努力したのに無駄だった。簡単に捨てられてしまった。