冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 涙が止まらず彼女はこの時やっと自分の心が思ったより弱いものだと知る。だが……不幸というのは重なるもの、この先に待ち受けていたのはなんと、さらなる悲劇だったのだ。




 しばらくしてようやく顔を上げたセシリーは、町の雰囲気が変わりつつあるのに身を固くした。靴を買ってくれると言ったのに、商店の並ぶ通りからは外れ、明らかに人気のない場所へと連れていかれようとしている。急に笑みを絶やさない男の顔が不気味に思え、一気に青ざめた。

「あ、あのっ! やっぱり私、ひとりで帰ります!」
「駄目だよ、大人しくして」

 男の肩を軽く叩くが、話を聞かず進もうとしたため、セシリーもう一度強く拒絶する。

「もういいです! 降ろして下さいっ!」
「チッ、勘づいたか」

 すると男の態度は豹変(ひょうへん)し、暴れた彼女を地面へと叩きつけた。
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