冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

密かな団長の趣味(リュアン視点)

 カタン、という音が扉の外から聞こえて、俺――リュアン・ヴェルナーは机の上に向けていた顔をゆっくりと上げた。

 ここは魔法騎士団本部内にある俺の私室だ。といっても室内にあるのは簡素なベッドと引き出し付きの机、後は本棚くらいのもので、余分なものはほとんど置いていない。ほとんどと言ったのは、今机の上に広がる道具たちが本来騎士の仕事に必要とされないものだからだ。
 
 机の上には柔らかい生地の濃いブルーの布が掛けられ、上にはところ(せま)しと小石ほどの大きさの金属部品、ルーペ、やすり、万力のような固定具、磨き油、細かく書き込まれたデザインなどが拡がっている。端の方にはココット皿に入れられた装飾用のラインストーンがまとめてあった。

 俺は肩を鳴らして椅子から立ち上がると、嵌めていた作業用の皮手袋もそのままに扉に近づき、小さく扉を開けて誰何(すいか)した。

「……誰だ?」
「ひえっ! ど、どうしているんですか?」
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