冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「あくまで個人的な意見ですが、私であれば仕入れません。デザインもありふれていて、惹きつける魅力がない。この角とか、台座の周りとか、ところどころ処理が甘い部分、歪みなんかもありますし、素人の品と判断されても仕方ないかと」
「そうか……。わかった」
「すみません、偉そうに。でも……熱意をやって取り組んでるのがわかったから」

 セシリーも長年その道で生きる父を支えてきたという自負があるのだろう。正直悔しい思いもあるが、感謝の気持ちの方が大きく、俺は彼女の忌憚(きたん)のない意見を率直に受け入れることができた。

「でも、これなんかは私、好きですよ。未完成みたいですけど」

 次いでセシリーが摘まんだやや大きめの楕円形のブローチに、俺は少しどきりとした。縁周りに描かれた文様はこの国ではあまり使われていないデザインだが、中央はくり抜かれたようにぽっかりと寂しく無地の金属を(さら)している。
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