冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「き、貴様……離せ! 僕がどのような身分なのか分かっているのか!」
「リ、リュアン様、駄目です! 彼はイーデル公爵家の息子で……」

 しかしリュアンはその言葉に欠片も怯えを見せず言い切った。

「何を言っている。セシリー、お前の言った通りだぞ。例え公爵だろうが王族だろうが、こんな場所で女性に暴力を振るう(やから)が許されていい道理はない。これ以上何かするつもりなら、腕の一本や二本は覚悟することだ」

 騒ぎに気付いた周りのテーブル席から、次々に女性の声が上がる。

「み、見てよ……! く、黒髪に紫の瞳……まさか、魔法騎士団の団長様じゃない!?」
「す、素敵! 見てあの小さくて綺麗なお顔、男の人だなんて思えないわ!」

 自分ではなく、注目を集めるのはリュアンばかり。それに憤慨(ふんがい)したマイルズは真っ赤な顔をして腕を振り解いた。
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