冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
(あの無邪気な笑顔がいいんだろうな……)

 今も彼女は、鼻歌でも歌いそうな顔で機嫌よく歩いてゆく。まるで誰かの役に立つのが嬉しくて仕方がないと言うかのように。そんなに悪いやつじゃないのは、俺にだってもうわかっている。

(それになんだか、小動物っぽくて……こう、動きから目を離しがたいよな)

 顔立ちはとりたてて美人とは言わないが、妙な愛嬌があるのだ。傍にいると思わず世話を焼いてやりたくなってしまう、そんな魅力が……。

(いかん……! 騙されんからな、俺は)

 俺はわずかに緩んだ口元をぴしゃりと叩くと、からかわれ事件のことを思いだし、額に無理して皺を作った。

(こうして気を抜いていると、またキースと一緒に悪だくみを計られて、無様な目に遭うんだ。あれは言わば、こちらの気を緩ませるための擬態にすぎん。リュアン、気を許すんじゃない。……でも)
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