冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 ――ラケルは王都近郊の農村で、農家を営んでいたルース家の長男として生まれたという。父にも母にも魔法の才は無かったが、両親や家族とは異なった容姿からも、三人の兄弟の内彼だけが魔力を授かったのは明らかだった。

 しかし両親は彼を他の兄弟とは区別せず、あくまで農家の息子として育てようとした。ラケル自身も家の仕事を継ぐことに不満を抱いていなかったし、近縁にも魔法を使うものの存在はなく、彼に眠る魔力もどうせたいしたものではないと思ったからだ。それに、貧乏農家に魔法を学ばせるのにかかる大金を支払う当てなどない。

 よって彼は自分の内に存在する魔力を一切感じることなく、普通の少年として幼少期を過ごすことになった。

 しかし……ラケルが九つくらいの時、事件は起きる。

 近くの森に散策に出かけた彼は、黒ずんだ毛皮に長い爪を持つ熊のような魔物に襲われた。そこら中を逃げ回ったあげく力尽き、ついに鋭い爪が体に振り下ろされようとした時……恐怖のあまりラケルは、身を守ろうと無意識に魔力を解放する。
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