冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「オォォォォォ――ン……」

 力強い咆哮が三度ほど続いて、回を重ねる度に少しずつ火の勢いが弱まり、そして空から雨が注ぎ始める。
 
(あれは……)

 煙が薄まり、徐々に息苦しさから解放されたラケルの目に映ったのは、一匹の大きな狼の姿だった。やや煤で汚れていたが、雲のような純白の毛並みに、月のような黄色く丸い瞳をしていて、その存在はひどく神秘的だった。
 
 見渡す限り焦げた木々の間からのそりと現れた狼は、幼いラケルの数倍はあろうという巨躯を近づけてきて、思わず彼は本能的な恐怖から後ずさる。

 だが、狼はどうもこちらを襲ったりという雰囲気ではなく、よく見れば立ち姿もひどく弱々しい。
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