冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

リルルとラケル②

 ――王都に来て数年が経ち……ラケルが立派な魔法使いになっていたかというと、もちろんそう簡単なものではなかった。

 夢に見た魔法使いの基礎修行というのは厳しいというか……じっと座って瞑想したりとか、魔力によって生み出した小さな火をそのまま何時間もを一点に留め置くとか、この頃の活発な子供には辛い内容が多く、中々修行に身が入らなかったのだ。もっとこう、ラケルとしては派手な魔法を撃ち合って戦うとか、空を飛び回り速さを競うとか、そういった楽しいことがやりたいのに……。

 他に課されたのも、師匠の作る薬の下ごしらえの工程――つまり、魔力を使って薬草を延々とすり鉢で擦り下ろしたり、抽出した薬剤を瓶詰したりといった、とにかく地味に尽きる作業ばかり。最初の方は徐々にできることが増える楽しみはあったものの、四年も五年も同じことばかりをやっていて、さすがにラケルは飽きてしまっていた。

 しかし、さりとて諦めるわけにはいかない。こんな状態で家に帰ってもがっかりされるか、もしかすると敷居すら跨がせてもらえないかもしれない。なんせ一緒にリルルまでついてくる……ふたりの帰還は貧乏農家の生活費をさぞ圧迫してしまうだろうから。
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