冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 騎士は怒りをあらわにしたが、次いでこちらを見る目はなぜか驚きを帯びており、一瞬の隙が生まれた。そこに彼女はヒールの欠けた靴を投げつけ、裸足で身を(ひるがえ)す。

「くそっ、お前待て! 聞きたいことが……おい――!」

 青年の声が後ろに遠ざかってゆくが、聞こえないよう耳を塞ぎ、振り向かず走る。

 頭の中はもうぐちゃぐちゃ。
 身勝手な男たちへの怒りや非力な自分への(いきどお)り、救われた礼もせず逃げる申し訳なさや今後の不安。制御しようのない混沌とした感情が全部涙と声に変わり、セシリーは上を向いて馬鹿みたいに泣き叫ぶ。

「うぁぁぁぁぁぁん! これから、どうしたらいいんだよぉ、私ぃ~!」

 眩しく青い空が今はただただ目に痛い。

 こんなにも最低な印象の出会いが、自分の運命に組み込まれた重要な歯車のひとつだったとセシリーは後々深く実感するところとなるのだけれど……この時まだ彼女は、自分にどんな未来が待ち受けているかなんて、欠片も想像することができなかった――。
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