冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 そして血に塗れた腕の中、彼女の瞳から光が……消える。  

「――う、ぁぁぁぁぁっ!」
「団長!?」「団長、どうしたんです!」

 現実へと引き戻してくれたのは、俺を呼ぶ甲高い悲鳴だった。
 柔らかく温かい手が頬へ添えられるのを感じた後、滲んだ視界に大写しになったのは、ひどく心配そうな顔をした、栗色の髪をした女性だ。
 
「ひどい汗……ね、熱は? どこか、怪我をしたりしたんですか?」
「……ラ……ナ……? 違う……セシリー、か?」

 浅い息を繰り返す俺の首筋をセシリーは優しくハンカチで拭ってくれ……後ろにいたラケルが素早く周囲を見渡し駆け出そうとする。
 
「僕、治療魔法を使える人を呼んできます!」
「……いや、いい。怪我はしていないんだ。ふたりともすまない、任務で少し疲れてしまっただけでな……。少し、休めばよくなる」
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