冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

変えたい自分

「お父様ーっ!!」

 ここは、王都に建てられたある伯爵のお屋敷だ。そしてその一室……一番奥の書斎に怒りのまま飛び込んでゆくのは、たった今婚約破棄を受けてきたばかりの伯爵令嬢セシリー。そう、ここは彼女の実家、クライスベル邸なのである。

「おお、なんだいセシリー。お前、その格好はどうした……」

 騎士団長を引っぱたいた勢いのもと街中を走り回ったおかげで、いくらか気持ちをすっきりさせた彼女は、部屋の中央で両手を広げ、待ち構えていた男性に詰め寄ると……。

「問答無用っ!」
「ぐはっ……」

 勢いのまま、どてっぱらを拳で貫き、絨毯(じゅうたん)の上にうずくまった彼を苛立たし気に見下ろした。

 言わずもがな、この茶髪で小洒落た感じに細髭(ほそひげ)を整えている紳士こそがクライスベル伯爵こと、セシリーの父オーギュスト・クライスベルなのだが……いかにもひょうきんそうなその顔は今、鳩尾(みぞおち)への打撃のせいで強い苦痛にゆがめられている。
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