冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「あまり大きな声では言えないけど、エイラが……リュアン様が治療院で不眠の相談をしてるところを見かけたんだって」
「そっか……。その症状なら、サンシュ、オウジュ、シソウニン……クリョウなんかもいいかもね」
「聞いたことないけど、それなぁに?」

 すらすらと出て来たそれらの単語は聞いたことが無く、セシリーが尋ねるとラケルは快く説明してくれた。

「薬の原料になる素材の名前だよ。植物の根とか、実とかを乾燥したりして作られるけど、珍しいのだと鉱石を砕いたりして作るのもあるよ。多分、セシリーがリュアンさんにこの間渡した塗り薬の中にも入ってたんじゃないかな?」 
「へぇ……さすが薬屋の元弟子さんだね」
「途中で諦めちゃったけどね。うちのお師匠様のお薬はよく効くから、少しは元気になってくれると思うんだ。そうそう、お師匠様は薬作りの腕もいいんだけど、魔法の腕もすごいんだよ! 戦いだって強いんだ……!」

 謙遜しつつもラケルは嬉しそうにジョンとの思い出を話してくれる。特殊な薬草の収集にふたりで出かけ、師匠が出会った魔物を火柱の魔法で一撃の下にやっつけたり……リルルの悪戯で工房の器材が破壊され、烈火のごとく怒ったジョンに魔法の縄で軒先に吊るされたりといった話からは、ラケルの師への尊敬や親愛が伝わってきた。
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