冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 最初期の魔法は、口頭での詠唱が必須だったらしい。しかしそれでは唱えている途中にどんな魔法が使われるのかがばれてしまい、容易に反撃が可能となって実戦には向かない。そこで考え出されたのが魔法陣による詠唱だ。門派ごとに違った色々な魔法記号を組み合わせて魔法陣を描き、魔法を発動することで、相手に察せられることが無く魔法の使用が可能になり、修練次第では高速で起動できるようになると、魔法陣は大いに広まり、今では多くの魔法使いが好んで使用するようになったという。

「じゃあ、魔法陣の方が優秀ってことですか?」
「いや、それは一概には言えぬのだ。確かに魔法陣は起動が早く戦闘向きだ。だが、その分誰が書いても効力は固定されやすく、同じ魔法を使うものが居れば決着がつきにくい。しかし、詠唱であれば自分のイメージや、生まれ持つ魔力の量次第では強く力を上乗せすることができる。魔法陣と組み合わせたり、背中を預けられるものがいるならば、きっと大きな力を発揮することだろう。使い分けが大事なのだよ」
「へぇ~」
「それに詠唱なら、うまくすれば両手を開けたまま魔法が使える。何かをしながら魔法陣を正確に描くのってすごく難しいんだ。両手で別々のことをするのを想像してもらえると、わかりやすいかも」

 ラケルが補足してくれたので、なんとなくセシリーも想像してみる。右手で絵を描き、左手でご飯を食べるとどうなるだろう。少なくともセシリーにはまともにできる自信はない。
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