冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「本来なら、両方扱えるようになるのが理想だ。だが、こやつは魔法陣を描くのが苦手でな。ほら……」

 ジョンはラケルをじろっと睨むと、彼の腰から新品同様の短い杖を抜いた。これはジョンがラケルに与えたもののはずだが……あまり使用した形跡はない。

「お前はまた詠唱ばかり使っておるな。この杖はお守りでは無いのだぞ?」
「すいません。どうも魔法陣には馴染めなくて……」

 ラケルは杖を返して貰うと、その場で先に光を灯して魔法陣を描き、火の玉を呼び出す。遅れてジョンも指の先を素早く動かし同じようにしたが、完成は彼の方がずっと早かった。

 ラケルの魔法陣は、ところどころいびつで火の玉自体も不安定に明滅しており、ジョンのものと比べると存在感がまるで希薄だ。

「修練自体はしているようだが、その分ではまだまだだぞ。まあ、もう私が面倒を見てやる義理も本当はないんだが……」
「そう言わないで下さいよお師匠様。僕なりに頑張ってるんですから。『火球よ、数多に別れ、光の花を散りばめよ』」
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