冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「リュアン様……?」

 訝しそうな顔でセシリーは首を傾け、一度目の演奏が終わる。

「では、セシリーさんの動きにリードしてもらいながら一度、動いてみてください。ラケル、もう一度演奏を」
「は、はい……」

 その様子に戸惑いを感じつつも、ラケルが二度目の演奏を開始する。

「ええと……リュアン様、手をつなぎましょ?」

 緩やかに序奏が終わる中、おずおずと手を差し伸べたままセシリーはリュアンを辛抱強く待った。フルートの音響が広まり空間に満ちるが、華やかな幾つもの小節は無為に流れるだけで、その中心にいるふたりの距離を一歩も縮めてはくれない。

 そして、演奏が終わるまで、彼がセシリーの手に触れることはなかった……。

「リュアン様……?」
 
 信じるように、その場に立ち続けていたセシリーにリュアンは、重たい口を開く。
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