冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 せめて事前に知らせてくれれば、多少なりとも溜飲が下がったはずなのに。そんな気持ちからか、彼女の行動には容赦がない。最後に強烈なのを一発お見舞し、倒れ込ませたオーギュストの背中を、まるでマットのように踏んづける。

「す、すまん~。だが各所へ結婚が流れたことを釈明したりで、本当に時間が取れなかったんだって! だから……痛い! 裸足で蹴るのはやめてくれ! ああ妻よ、どうして我が娘はこんなに暴力的に育ってしまったのか。でも、体だけはものすごく丈夫に育ったから、心配しないでく……ぶぎゅっ!」
「はーっ、はーっ……。今度やったら承知しないからね」

 全国の商会員や、使用人を含む一家全員が路頭に迷った可能性があるのだから仕方のないことと、セシリーの怒りはやっと一旦の鎮火をみた。

ずたぼろの姿で、亡くなった母サラの肖像が入ったペンダントを拝む父にとどめを刺すと、彼女は書斎を飛びだす。

 そして呼び止めたのは、通路で額縁にはたきをかけていたひとりの侍女だ。

「エイラ、こんな時間に申し訳ないけど、湯浴みの用意をしてくれる?」
「あらあら~。御嬢様、ひどい御格好ですね~?」
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