冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 目尻を柔らかく下げ微笑んだ桃色髪の彼女は、エイラ・バーキンスという。元商家であったころにオーギュストが雇い入れた女性で、セシリーとの付き合いは使用人の中でも一番長い。少し年の離れた姉のような存在で、穏やかな表情や間延びした声からは予想できないくらいのしっかり者である。

「ちょっと色々あってね……」
「かしこまりました~。すぐに着換えを持ってまいります」

 エイラは浴室にてテキパキと準備を済ませてくれて、セシリーは早速汚れた服を脱ぐと汗を流し、湯船に飛び込む。

(むふぅ~。まったく、やってらんないわ)

 疲労と怒りでがちがちに固まった身体がほぐれ、口元がやっと緩んでくる。未だ気分は憂鬱だが、理由が分かったことで少しだけ自分の中で心の整理がついた。

 婚約破棄や人さらいの件については終わったことで、もう考えても仕方がない。エイラにぶちぶちと愚痴を聞いてもらって、とりあえず頭の中から追いやると、残ったのは自分を救ってくれたあの騎士団長のこと。
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