冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 リュアンはは考え込むように、視線を落とす。
 かつて大切な人を失い心に封じ込めた、悲しみや自責といった後ろめたい感情。それが、今も重たく胸にわだかまっているのか、解消されたのか……自分でもまだはっきりとは判断できない。それはふとした時にまた、隙間から顔を覗かせるのかもしれない。

 しかしリュアンは振り切るように顔を上げると、清々しい表情で言った。

「あの時な……。セシリーは必死に、俺を身を(てい)して庇ってくれた。大勢に囲まれて、傷つけられても恐れず、皆が俺を必要としてくれてるんだって。あいつがそう言ってくれたから、俺も少しだけ自分を信じてもいいのかって思えたよ。……まだ、昔を思い出すのは怖いけど、でも支えてくれる皆とセシリーのためにも、これから向き合っていこうと思ってる」

 リュアンは窓の外……自分の生まれた国の方角を見た。十年近くの時を経て、ようやく心の奥に閉じ込めていた罪の意識を受け止めるきっかけを得られたのは、間違いなくセシリーのおかげだ。

「少し、目つきが変わりましたね。……セシリーさんのために、ですか。ふっふ、そんなにも距離が近づいてしまうとはね」
「ち、違う! も、もちろん仲間としてで、特別な意味はないっ……!」
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