冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「きゃあぁぁ、マイルズ素敵ぃ! イルマ一生着いてくから!」

 テーブルの上にあったナイフを、マイルズは壁掛けされた王国旗へと投げ、見事それは真ん中の太陽の紋章を射抜く。喝采をあげて頬に口づけし、首に顔をこすりつけてくるイルマを抱きしめてやりながらも、マイルズは内心ではこんなことを考える……。

(はっ……魔法ね。僕は授からなかったが、そんなもの、このイルマみたいに使える奴を従わせればなんとでもなることさ。手段はいくらでもある。僕はなんたって、あのイーデル大公爵の息子なんだからな。こいつも今は役に立つし傍においてやるが、僕はひとりの女に縛られるつもりなど毛頭ないんだ。数年も経って扱いにくくなってきたら、代わりを見繕って捨ててやるさ……)

 彼は人を惹きつける魅力と権力、それこそがこの世の中で最も重要な力であると信じていた。

 そして自分こそが最もそれに愛された人間なのだと自惚れており、己の才能をいかんなく発揮し、周りのすべてを支配するためには、不要なものは徹底的に取り除くつもりでいる。

(そうさ……僕に逆らう屑を取り除くのが、将来この国の頂点に立つ僕の義務なんだ! ククククッ……)
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