冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 そんな時、次第に大きくなるノックがマイルズの考えを乱した。怒りの表情をした彼が居丈高に扉を開くよう命令すると、おどおどした様子の使用人が顔を見せ、困った様子で告げる。

「し、失礼いたします……! マイルズ様、先程からお客様がいらっしゃっていますが」
「チッ、今いいところにだったのに……。誰が来たんだ」
「お父上のイーデル公爵です」
「それを早く言え! さっさとお通ししろ!」
「も、申し訳ありません! 直ちに!」

 使えない使用人を追い出し、彼が身なりを整えて少し待つと父が室内に姿を現した。

 彼こそが、アルストリン・イーデル公爵――王都の西方に大領地を構える、品行方正で名君と名高いマイルズの父親だ。正直、昔はあれやこれやと厳しく(しつ)けてきて、マイルズはあまり彼のことが好きではなかった。

 だが最近は違う。話を真摯に聞いてくれ、なんでも叶えてくれる理想の父だ。きっと立派に成長した自分を認め、将来自領を引き継いでもらうべく必死なのだ。
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