冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
第二章 月の聖女

父の心配

『――セシリー・クライスベル。お前に選択権は無いのだ……』

 そんな言葉の通り、私は今……無理矢理とんでもないところに連れて来られていた。

 とてつもない大きさの広間に居並ぶ、大勢の厳めしい貴族たちの前で体を低くした私は、ここへ引っ張ってきた目の前の人物の言葉を思い出し、ごくりと唾を飲む。

 視線の先で私と同じように跪いているのは、美丈夫と言った感じで背が高く体格もよい、黒髪黒目の端正な顔の男性。その外套の背に大きく刻まれた紋章は、私の育った国のものではなく隣国のもの。

『此度皆に集まってもらったのは、我が息子である王太子ジェラルドが、月の聖女を見出したという知らせを受けてのことであるが……ジェラルドよ、相違無いな?』
『ハッ……!』

 そのさらに前方で、煌びやかな衣装を纏い私たちを見下ろして高らかに声を上げたのは、信じがたいことに隣の国の王様なのだという。そもそも、目の前の彼だって、他ならぬそこの王太子らしいのだ。そしてここは隣国の王宮、何を隠そう謁見の広間というやつであった。
< 297 / 799 >

この作品をシェア

pagetop