冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

記憶に残る婚約破棄でした

 辺りを取りまく笑顔の民衆の歓声。華々しく飾られた街角。そして、馬車の上で手を振る仲(むつ)まじい番の美男美女。

その日、ここファーリスデル王国の王都では、王太子と聖女の婚約パレードが開催されていた。

大勢の国民の祝福の言葉が飛びかい熱気渦巻くそんな中、ある女性がパレードの主役をどぶのように濁った瞳で見上げ、ひとりとぼとぼ歩いてゆく。その名は――。

(セシリー・クライスベル……って、それ私じゃない。いけないいけない、これじゃただの現実逃避だわ)

 それは他ならぬ彼女自身の話なのだが、今セシリーは厳しい現実から目を背けなければここから一歩も踏み出せなくなる自信が有った。なぜならば……。

 ――婚約破棄。

 まさに先ほど、乗り換え相手同席の元叩きつけられた関係解消のお知らせが、セシリーの記憶に最も忌まわしい出来事として刻みつけられたところだった。
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