冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「……ありがと、エイラ」

 セシリーはあの時、自分を応援してくれるエイラや、まあ一応大事にしてくれる父の姿が頭に浮かばなかったのを残念に思った。大切にしてくれている人は、ちゃんと身近にいるのに。

「でも、相談には乗ってほしいな。お土産を持っていこうと思うんだけど、男の人ってなにをもらうと喜ぶのかなぁ?」
「騎士団の御方なのでしょう? 今回のお詫びも兼ねお薬をお渡しするのは当然として……これこれこういったものなどはいかがでしょう」
「なるほど、相手をよく知らないんだし、実用的なものの方が好まれるかもね……」

 エイラは商会で取り扱う商品をよく知っているので、いくつかの候補を挙げてみせる。その中で、セシリーは聞いている内にピンとくる物があって、目を輝かせた。

「うん、決めた! 相談事はやっぱりエイラよね、頼りになるわ!」
「御嬢様のお悩みを解決できたなら本望ですよ。ささ、元気が出たら殿方に向ける笑顔の練習でもなさってくださいませ」

 湯船から上がり、拭き上げた体に丁寧に香油を刷り込んでもらいながら、セシリーは鏡の前でにっと笑顔を作ってみる。

(……やっぱり、嫌だよね。このまま人任せの人生を送るのは)
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