冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「あなたがどうしても娘さんにお話しする気が無いのなら、私から言います。いいですね?」

 オーギュストの喉がぐっと動き、迷うように視線がわずかに揺らぐ。しかしキースは臆さずに、その先の話をぶつけた。

「この『月と太陽の聖女』という伝承は実話なのですよ。五百年程前、愚かな王ごと、ひとつの国が滅んだというね……」
「……ええと」

 セシリーは、ぽかんと口を開けながらキースが、『なんてね。ちょっとした冗談ですよ、雰囲気を和らげるための』……などと、軽くウインクでもして場をにごしてくれるのを待った。しかしいくらも経たず彼から持ち出されたのは、さらにその話を肯定させようという材料だった。

「もし信じられないのであれば、そうですね。家名に誓い、先程の会話の内容が真実であると誓約書をしたためても構いませんが……」
「い、いえ、結構ですけど……」

 セシリーはずるっとすべった体勢を戻しながら、浮かんだ疑問をそのまま告げる。
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