冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「でも、だったら王国はどうしてわざわざそれを秘密に? ……だって、その悪い王様は倒されて、今この一帯は平和じゃないですか。全部終わったことなんでしょ?」
「――終わってなどいなかったのです」

 鋭く言葉を差し挟むキースの眼差しに捕らわれ、セシリーは息を呑む。オーギュストから何も反応がないことを確認し、キースはそのまま言葉を続けた。

「悪戯に不安を煽られた国民が恐慌に陥るのを防ぐため、この事実はごくわずかの人間にしか知らされておりません」

 ゆめゆめ他言なさらぬように……。そうした前置きの後、キースは青い瞳一杯にセシリーの顔だけを収めて身を乗り出すと、その手を強く握った。

「かつて打倒されし悪王リズバーンは、あの不毛のリズバーン砂丘へと封ぜられただけだったのです。そして今、かつて両国の王と聖女たちが手掛けた封印は破られようとしている……! 大災厄の再来を、そして多くの人命が失われるのを防ぐため……《月の聖女》の血を継いだあなたの力を、どうか貸していただきたい――!」
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