冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

昔の記憶

 強い日光、乾いた草の匂いのする風、軽快な車輪の回るカラカラという音。
 温かいものに包まれながら、体を揺らされている……そんな感覚。

「まま……。きしさまのおはなしして」

 舌ったらずな幼い子供の声がした。
 視界が真上に振れ、牧歌的な雰囲気の畦道からぐるりと切り替わると、ひとりの女性の顔が大写しになる。

「あら。セシリーは王子様じゃなくて、騎士様の方が好きなの? ママとお揃いね」

 とても優しそうな顔をした女性だ。銀髪の片側だけを月長石の髪留めで止め、同じ銀の瞳をした……まるで、あのお伽噺のような。今自分は、この女性に抱かれている。道を走る馬車の御者台に座った、彼女の膝の上に。

(お母様……?)

 声にしたつもりだったのに、口には出せなかった。代わりに、ひどく小さな幼児の声が、ひとりでに自分の口から発せられる。
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