冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 キースの連絡といえば、もしかするとあの《月の聖女》関連の話だろうか。未だオーギュストと和解していないのに、彼と秘密の話をするのは気が引けたが、セシリーはとりあえず受け取っておくことにした。

「これも渡しておく」

 次いでリュアンが隣から差し出した物を、セシリーは驚きの余り両手で挟み込んで覗き込むことになった。

「嘘っ、これもしかして……! 私のしてた髪飾りじゃないですか!?」

 彼の手のひらの上には、ならず者の男に壊されたはずの、セシリーの母の形見の髪留めが輝いていた。あしらわれた宝石は欠けてしまったようで、留め具の部分の意匠もやや異なるものの、彼女からすれば二度と戻らないはずの宝物が返ってきたことに変わりはない。一部が欠損した月長石は研磨し直され、まるで三日月のような静かな光を放っていて、その下には真新しい涙滴型のダイヤ飾りが小さく揺れている。

「できる限り元の形に近いように修復したつもりだ。ダイヤはまあ、おまけだな……付けてやろうか?」
「えっ……あっ、はい。……え?」

 思いもよらぬ台詞にしどろもどろなセシリーの手からリュアンは髪飾りを摘まみ取ると、側頭部の髪を優しく束ね、丁寧に髪留めに通す。
< 327 / 799 >

この作品をシェア

pagetop