冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 隣国との争いもとうに途絶えた現代、この国で誰よりも人の命と関わっているのはきっと、彼らのような魔法騎士や、一部の医者のような人々だけだろう。いつ人命が失われるかも分からない魔物との戦場で、彼らはきっと何度も重大な決断を任され、責任を背負ってきたのだ。

 自分がそうなれる自信は露ほども無い。でもセシリーは、大切な人が失われる悲しさは、つい最近思い出したばかりだ。こんな思いを、誰かにさせるわけにはいかない。例え父から幾ら反対受けようとも、ここで断れば絶対に後悔する。

「やります……やらなければ、どんなことでも。だって私、お父様やクライスベル家の皆、魔法騎士団の人たち、他にも大事な人たちが一杯いるんです。いつか彼らが家族を失ったり、苦しい思いをするなんて……絶対に嫌だから」
『その決断を、私は本当に尊敬します……! この国を守る貴族のひとりとして、何よりも、キース・エイダンという個人として私はあなたに厚く感謝を申し上げねばならない。改めて、リュアンを筆頭とする魔法騎士団一丸となり、これから全力であなたを支えることを誓わせていただく。一緒にこの国の平和を、人々の幸せを守りましょう!』
「はいっ!」

 意思の確認が終わるとキースはセシリーに、金属板と一緒に渡された紙袋から、ひとつの薬袋を取り出すよう指示した。
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