冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 腕で包んだ温かさを逃がすまいと、ひときわ強く力を入れた後、私は娘を見すえる。

「もう、魔法騎士団に行ってはならない。彼らの世話ならお前でなくてもできるはずだ」
「ううん、今日話に来たのはそのことじゃないの」

 セシリーは手の内に握っていたものを見せた。そこには失くしたと言っていたサラの形見の髪留めが乗せられている。彼女はそれを、騎士団の皆が直してくれたのだ、と笑った。

「ごめんなさい……私、お母様のことあんまり覚えてなかったの。でも……これを失くした後、夢に見たんだ。とっても優しい顔をして、私を可愛がってくれてたお母様のこと」
「セシリー……すまない」

 私は深く頭を下げる。

「私のせいなんだ。それを魔道具として作り直し、身に付けている間お前に……サラに関する記憶を思い出させないようにしていた。あのことは小さかったお前には負担が大きすぎると、そう思ってな。今までそれを話せずにいた……」
「ううん。私もなんとなくそうじゃないかって思った。ねえ……お父さん、私、お母様に会いに行きたい。あるんでしょ……隣の国に、お母様のお墓」
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