冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「ああ……だが」

 隣国ガレイタムのひとつの寒村の近くにそれは存在するが、私はかつてセシリーをそこに連れて行ったことはない。むごい仕打ちだとは思うが、これまで彼女がサラにまつわる記憶に触れることを徹底的に避けて来たのだ。

「少し、気持ちの整理を付けたいの。これまでに体験したことや、思い出したことも含めて、私がこれから胸を張って生きていくためにもそうしなきゃって思ったんだ。だから……お願いします、お父様」

 普段ならなんとしても断っていただろう。しかし、しっかりと背筋を伸ばして深く腰を折った、成長した娘の真摯な姿に……私は首を横に振れなかった。

「……わかった。ならば一緒に行こう。仕事を整理して一週間ほど休みを取る」
「ありがとうございます……お父様」
「礼など言わないでくれ。元はといえば私の不明から、ずいぶんお前を苦しめてしまったな……許しておくれ。今日はもう遅いから休みなさい。明日の午後、ここを発とう」

 涙を浮かべて頷いたセシリーの背中を、そっと押して部屋から出すと、私は倒れるように椅子に座り込んだ。いつも閉じているカーテンを開き、月夜を(あお)ぐ。
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