冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
(もう少し丁寧に対応していれば、時間を貰うくらいはできたかもしれない)

 叩かれた頬を押さえると、ひりつく痛みがセシリーの顔を思い出させる。
 真っ直ぐな瞳をした素直そうな娘だった。なんとなくだが、後から考えるとやすやすと男に付いていきそうな感じには見えない。

(失敗したな。理由くらい聞いてやればよかった)
「浮かない顔だ。そんなにも気になって仕方がないのですか。セシリー嬢……でしたっけね?」
「……どういう意味だ」
「おや、含むような意味があるように聞こえました? 私はただ単に王国の平和を(おもんばか)って――おおっと」

 声に揶揄(やゆ)するような響きを感じた瞬間、リュアンはキースの顔に拳を突き込む。だが彼は身を引いてそれを軽く受け止めると、余裕綽々で手を振った。

「怖い怖い。半分以上本気だったでしょう、今の」
「知るか。からかうのも大概にしろ。真面目な話をしてるんだ」
「それもそうですね。ま、彼女の件も含め、封印の対処は急ぎで進めるといたしまして、もうひとつ大事なご予定をお忘れになっていないか、一応確認を」
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