冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 いくらそんなことを言われても、セシリーの緊張は消えない。まさか何の準備もせずこの国の次期最高権力者と会話することになるなんて……背筋が震える。

 だが勇敢にもオーギュストは自分から口を開いた。そういえば、王太子は父とは初対面では無いと言った。王都にいた頃に何らかの関わりがあったのだろうか……。

「どうやって、私どもの場所を知ったのです?」
「国を甘く見過ぎだ……一度追跡を逃れた手腕は見事なものだったが、お前が国外に逃れたこと、そして幾度か身を隠し、あの場所を訪れていたことはとうに知っていたさ」

 母の墓がそこまで寂れた感じがしていなかったのは、やはり父が忙しい仕事の合間をぬって定期的に手入れしていたおかげなのだとセシリーは知った。同時に彼女は、気まずそうなオーギュストの顔を見て、これまでぼんやりとしていた違和感の正体に今更気付く。

(そういえば、どうしてファーリスデル王国の魔法騎士団が、月の聖女を探していたの? だって、ファーリスデルには太陽の聖女様がいらっしゃるじゃない……)
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