冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 こうして冷静になって考えてみると、おかしな話だった。

 オーギュストの話から、セシリーがレフィーニ家の、月の聖女の血を引くことは分かった。けれど、本来災厄を封印を行う月の聖女の身柄は探すまでもなく、こちらの国で確保されているはずだ。レフィーニ家の血を引く者なら他にいてもいいはずだし、父は他の貴族家も聖女の血を取り入れたと説明してくれた。しかしあの時キースは、封印を行う資格を持つのは現在セシリーだけだと、断言するとまで言った。

 それがどういうことなのか、疑問は彼女の表情から隠せていなかったらしい。

「オーギュスト、貴様のことだ。知りつつも教えていなかったのだろう? 月の聖女の血を一番色濃く受け継いでいた、レフィーニ侯爵家の血は途絶えた。そして、傍系(ぼうけい)となった他家の内にも聖女の資格を満たす者は今、いない……」

 感じていた圧迫感がふと揺らぎ、ジェラルドが疲れたような表情をした。だがそれは一瞬だけで、彼はすぐに気を取り直すとセシリーに一方的に通告する。

「セシリー・クライスベル。お前に選択権は無いのだ。今代の月の聖女として、再度《大災厄》の封印を行うため……王都まで来てもらおう」
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