冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「おいラケル! なんかさ、セシリーちゃんが隣の国へ行ったまま帰って来ねえんだって! 今執務室で団長たちがエイラさんに話聞いてるから、お前も行って来いよ!」
「え!? うんすぐ行くよ!」

 エイラはセシリーの口利きで先日から魔法騎士団の日常業務を手伝ってくれていた女性だ。ずいぶんしっかりした人で、セシリーが太鼓判(たいこばん)を押すだけあると騎士たちの評判もよかったのだが……。

 最近わずかに表情が曇っていたのはそのせいかと、疲れも忘れて厩舎を飛び出したラケルは急いで執務室へと走る。

(こっちこっち、今話してる!)

 手招きしながら扉の外で聞き耳を立てていた片割れのもうひとり、ウィリーに話を聞くところによると……オーギュストとセシリーが隣国へ赴いた後、ふたりからの連絡が途絶えてしまったのだという。本来なら一週間も有れば往復できるはずの道のりが、期日を過ぎても帰還しない。

 オーギュストは長期不在する場合は旅先でも必ず連絡を入れる。だが、今回はガレイタム入りした際の報告だけで、その手紙にも途中で寄り道するとは書いておらず、どうも不安でたまらなくなったのだそうだ。
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