冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「知ってるだろ。あの国のことは俺が団内の誰よりも詳しい。それに何より、セシリーの身柄が拘束されたと考えるなら、王国の手の者である可能性が高い。彼らと交渉を行える可能性が有るのは、俺だけだ」
「ですがね……! はあ……あなたも分かっているでしょう。いくらセシリーさんたちがファーリスデルの国籍を持っていたとしても、もし彼女が《月の聖女》であることを理由にガレイタムの王家が身柄を取り戻そうとしたのであれば……我々がそれに抗うのは困難です!」
(どういうことなんだろう……セシリーがなんだって?)

 ラケルは彼らが話している内容が把握できず、そのままリュアンたちの話に聞き入る。彼らの話だと、まるでセシリーが特別な立場でもあるかのような口ぶりだが……。
 
 思えばふたりは時々、なにか深刻な表情で執務室で話している時があった。他の騎士に聞いても、誰もその内容に心当たりは無いようだったし、なにか非常にプライベートな秘密が彼らの間にはあるのかもしれないと思ってはいた。でも、それに隣国やその象徴である《月の聖女》、そしてセシリーまでが関わっているなんて、ラケルは信じられない思いだった。

 思いを巡らせる中、ふたりの会話は続く。

「わかってる。セシリーが自分の意志で月の聖女として彼らに協力するのなら、それでいい。でももし、あいつが意に沿わぬようなやり方で従わされるというのなら……俺は、やはり見て見ぬ振りは出来ないよ……。あいつには大きい借りができたし、それに……」
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