冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~


 広間がざわめきに包まれる中、堂々とジェラルドは中央に敷かれた青い絨毯を踏みしめてゆき、おどおどとそれに着いてゆくセシリーにも、周りの視線が注がれる。

「あの者は……?」「どうも、月の聖女候補であるとかないとか……」

 先んじてジェラルドが早馬でも送り知らせたのか、ひそひそとささやく声が聞こえ、セシリーは一層肩をすぼめる。ジェラルドは空の玉座の少し手前でで立ち止まると、手振りでセシリーに(ひざまず)くように指示し、自分もそうした。

「国王陛下のお成りである! 皆のもの、控えよ!」

 朗々とした声が響くと、衣擦れの音と共に誰かが目の前に進み出て来て、断続的に鳴らされる銅鑼の間隔がどんどん狭まってゆく。緊張で胃がしくしく痛むが、セシリーにはうつむけた頭を上げてまでその顔を確認する勇気はなかった。

 やがて王様が着座し、静まり返った宮殿内に威厳のある声が響く。

「ご苦労。皆のもの、面を上げよ」
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