冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 室内のざわめきは、国王が片手を小さく掲げただけでぴたりと止まり、彼は初めてセシリー個人へ言葉を掛けた。

「セシリーとやら。よき機会じゃ、この場で月の聖女たる資格を証してみせよ」
(そんなこと言われましても……)

 単刀直入に告げられた国王の言葉にセシリーはどうすることもできず固まり、背筋を冷や汗がつうっと伝っていく。そも聖女がなんたるかすら彼女にはまったく分かっていないのだ。かろうじて魔力を知覚できるようになったのがつい最近のことで、ファーリスデルでならず者に捕らえられた時のような聖女としての力など、意図して発揮できようはずもないのに。

 ざわめきと疑いの声が俯くセシリーの胸をつつき、呼吸すら覚束なくなってゆく。

「どうした? 言葉だけでは何人も納得させることはできぬぞ?」
(どうしたらいいの……!?)

 国王の訝しむ声が聞こえ、真っ青になったセシリーだったが、そこでジェラルドが励ますように手のひらを背中に触れさせ、後ろから助け舟を出してくれた。

「王よ、発言をお許しいただきたく」
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