冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「そうよ……たまらないわよ。急激な環境変化に生き物は適応できないんだから……元庶民が王妃なんかになったら精神に異常をきたすわ」

 深々とベッドに沈み込んだ自分の体を抱え、セシリーはぶるりを震えた後……その窪みから這い出ようとしたが、縁に手が届かない程その面積は広い。

(うちのベッド、こんな広かったっけ? 私、知らない間に体が縮んだりしてないよね)

 ずりずりと体を引きずり、ようやく手元が布の海から出されたという時、指先がしっかりと掴まれぐいっと引っ張られる。それを支えにしてベッドから顔を出したセシリーの前には、見知らぬ女性の顔があった。

「おはよう、セシリー・クライスベル」

 銀の髪と瞳をした、美しい女性……涼しげな左目の下ある小さなほくろが色っぽい。そんな気品のある女性がしっとりと微笑むのに、セシリーは、ああと手を打ち鳴らした。

「お父様が新しく雇った侍女の人ね?」
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