冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

昔日の話

 宮廷での生活というと、茶を嗜み、花を愛で、詩歌や音曲に(ふけ)るような華美な生活が想像されるが、ここでの生活はそれとはだいぶ異なるものだった。

 衣装の召し替えや食事の用意こそ侍女たちが来てやってくれるものの、それ以外は全て自分たちでやる。掃除も、庭の手入れも、午後のお茶の用意も……彼女たちは手ずから、しかも魔法を使ってやるのだ。

 セシリーは部屋中を飛び交うはたきや雑巾を見上げつつ、自らも少しでも何か真似してみようと体から魔力を呼び出す。あたかも触手のように両手から伸ばすと、バケツに入った雑巾を絞ろうとしたが、それが失敗だった。

 ――きゅっぽん。

 という音がしたかは知らないが、魔力の手から雑巾はすぽっと逃れ、セシリーの顔面に思いっきり打ち付けられた。繊細な力加減はまだまだセシリーには難しい。

「うぇぇ……」
「あらら……やっちゃいましたね。よしよし」
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