冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「王妃は……レミュール様たちではいけないのですか?」
「そなたの言いたいことは分かる。オレも早く世継ぎを作らねばならんのは分かっているが……少々時期が悪いのだ。……少しばかり話を聞いてもらえるか?」
「は、はぁ。全然構いませんけど……」
「一世代前ならば、別に彼女たちでも構わなかったのだ。実は《月の聖女》の資質を顕せなくとも、歴代で王妃となった者はいくらでもいる。だが……お前も知っている通り《大災厄》の復活を控えた今、国の存続のために王家が必要としているのは姿形だけをなぞっただけの美姫ではなく……確固たる資質をその身に備えた本物の月の聖女だけなのだ」
 
 ソファに深くもたれ、物憂げな視線を上に上げた後、ジェラルドはセシリーに問う。

「ふたりからは、この離宮のことをどのように聞いている?」
「……ええと、彼女たちが十年ほど前に、大勢の聖女候補のひとりとしてここに集められたけれど、結局はひとりを除き、資格を持つ者は現れなかった……そのことだけです。だとすれば、そのひとりというのは、おふたりのどちらでもないのですよね? ……教えていただけませんか、なぜこの国に今、月の聖女の資格を満たす者が私だけなのか」

 セシリーとジェラルドの真剣な瞳が交錯し、彼は重たい決意を吐き出すように声を低くした。
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