冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 話が脇道に逸れてしまったな……。王家に生まれたのはオレだけではなく、弟がひとりいた。四つ年下の、ひ弱な弟だ。父はオレの予備としてあやつも鍛えようと思ったようだが、当時弟は体が弱く、少し体に無理をさせただけですぐに熱を出し倒れる始末だ。結局諦めた父から奴は不出来の烙印を捺されて放置された。

 しかし一方であやつは稀有な魔法の才を持ち合わせており、それも国家の役には立つ。……オーギュストが出奔した後もオレが国内を回り剣を修めんと修練に励む中、奴もまた魔法を必死に学んでいた様子だった。たまに宮殿に戻り会う時、奴はオレに言っていたのだ――将来はかならず兄上のお役に立てるように、宮廷魔術師となってみせますなどと殊勝なことをな。その頃までは兄弟仲は決して悪くはなかったのだ。

 しかし、少しずつ不穏は迫っていた。
 時計塔……ファーリスデルにも同じものがあるであろう。あれが刻む時間のずれが、その頃には無視できぬほど大きくなっていた。国民の多くが知らぬことだが、実は時計塔は建物自体が巨大な魔道具である。周囲から吸い上げた魔力を隣国との境目へ、封印の地へと送信し、それを維持している。王家は事実を隠蔽したまま今まで必死に長い間保存を図ってきたが、しかし……限界が訪れてしまった。

 もちろん我々も手もこまねいていたわけではない。この五百年の間に進化した技術を使い、ファーリスデルとの共同研究の成果を惜しむことなく、部分的に改修を行ってきた。 
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