冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「ウォン!」

 先に進んでいたリルルが一鳴きすると、木々の間に少しずつ白い影が浮かび始めた。それは彼らと同じような白い狼たちだ。

 リルルの家族のようなものなのか、彼が尻尾を振り回しながら走ってゆくと、集まってきた白狼たちにもみくちゃにされた。そして、その後ろから、姿を現した存在にセシリーは息を呑む。

 大きな大きな白狼――誘拐騒ぎの時にリルルが変身した姿よりさらに二回りほども大きなその姿に、兵士たちが色めき立ち、ジェラルドを守ろうとする。

「いや、いい……下がっておれ。攻撃する意思は無さそうだ」

 セシリーもそう思った。大狼のその金色の眼には、獲物に対する欲望ではなく、深い知性が感じられた。リルルがその狼に近づいて何事かを訴えかけるように見つめ……大狼は頷くとセシリーの前に立ち、背中を向け体を低くかがめる。

「乗れってことかしら……?」
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