冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 すると、これもまやかしなのだが……間抜けな音楽と共にセシリーの頭の上にぽこんと白旗が立った。マーシャが勝利条件を満たし、セシリーの敗北が決まったのだ。

「レミュールさぁん……」
「なによ、仕方ないでしょう。決まりは決まりなんですもの……」

 涙目のセシリーが後ろ側から現れたレミュールに抗議の視線を送るが、彼女はツンと鼻を背け、取り合ってくれない。

 ちなみに、マーシャとふたりで何をしていたのかというと……その名も《大魔法戦略》なる遊戯盤で遊んでいただけだ。しかしこれはただのお遊戯ではない。れっきとした魔法使い用の訓練器具も兼ねている。

 ルールはそう複雑ではなく、互いに十二個ある盤上の陣地にそれぞれが王様を潜ませ、それを山札から引く作戦カードの指示に従って、送る兵士で順番に探り合い、先に王様を見つけた方が勝ちというもの。ちなみに、兵の操作は先程ふたりが手にしていたロッドという棒で、魔力を通して行わなければならないのだが、これが繊細な力加減が必要で中々難しいのだ。

 夕食後にマーシャに誘われたことにより始められたこの遊び。気がつけば数時間も経つほど夢中になってしまっていた。だが運の要素も多分にあり、存分に手加減してもらったにもかかわらず、セシリーは一度もマーシャに勝てなかった。
< 439 / 799 >

この作品をシェア

pagetop