冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
「わぁっ! ったぁ~、なんなのよ一体」
「ワウッ! ハッハッハッ……」

 立ち上がろうとした彼女の体の上に、もふっとした温かいものがのしかかった。一抱えもある毛玉お化けをなんだろうと腕で押し上げると、先細った獣の顔から舌が伸び、セシリーの顔をぺろっと()める。

「ウォン!」
「い、犬? なにこの子……」

 千切れそうなほど尻尾を振り、嬉しそうに彼女を見下ろしたのは、純白の毛並みを持つ一匹の子犬だ。とはいえそれなりの大きさはあり、引きはがすのに苦労する。

「もう、びっくりするじゃない。まったく、ずいぶん人懐っこいなぁ」

 一直線にこっちに走ってきたのを見ると、おわびのひとつとして持ってきた菓子折りにでも目を付けたのだろうか。やらないわよと、セシリーは唇を尖らせながら見下ろすが、子犬は何が楽しいのか彼女に懸命にじゃれかかる。よくよく見ると、子犬はどこかに引っ掛けでもしたのか後ろ脚に赤いものを滲ませ、怪我をしているとわかった。
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