冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
(今は、それよりも目の前のことに集中しよう……。もらった聖水も鞄の中にあるし、ふたりにも色々教えてもらって……二度と、あの時みたいにならないようにしなくちゃ……!)
 
 あの……力を誤って発揮した時の津波に飲まれたような感覚は今でも鮮明だ。もう二度とあんな事態を起こさないように、まずはここでまともな日常生活を送ることを目標に定めると、セシリーは考えを追い払うように遊戯盤を棚に収納し、テーブルを綺麗に片していたマーシャを手伝おうとする。

 そこでレミュールがセシリーの肩に手を置いてぐっと引き寄せ、マーシャに断わりを入れた。

「ごめんなさいマーシャ、セシリーを少し借りて行くわね。ジェラルド様から二週間後に控えた婚約披露パレードについて、色々教えてあげて欲しいと言われてるの。片付けが終わったら先に休んでおいて」
「はぁい、お気になさらず。後はあたしがやっておきますから」

 《風よ、其を羽衣にて包み浮かせよ》――そんな歌うような詠唱でふわふわとティーセットを浮かせると、マーシャは快くキッチンへ片付けに入った。そんな後ろ姿に小さく頭を下げ、婚約披露パレードなどという言葉に大層浮かない気持ちになったセシリーはレミュールに続く。
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